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横浜地方裁判所 昭和63年(ワ)949号 判決 1990年1月29日

原告

佐藤友城

ほか一名

被告

神奈川中央交通株式会社

ほか一名

主文

原告等の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告等は、各自、原告等各自に対し二〇〇〇万円及び右各金員に対する昭和六一年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

仮執行宣言の申立て

二  請求の趣旨に対する答弁

原告等の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

発生日時 昭和六一年七月一日午後九時一〇分頃

発生場所 横浜市戸塚区矢部町一五六七番地先路上

加害車両 大型乗用自動車(路線バス 横浜二二か三六九六)

運転者 被告橋本岩夫(以下「被告橋本」という。)

被害車両 原動機付自転車(戸塚区中い九四六四)

運転者 訴外佐藤智春(以下「訴外智春」という。)

事故態様 訴外智春が被害車両を運転走行中、加害車両が本件事故現場付近の停留所にさしかかり速度を落としたため、先行車に続いてこれを追い越そうとしたところ、加害車両が右に寄つたため、訴外智春運転の被害車両が加害車両に接触して転倒し、訴外智春は、加害車両の後輪に轢過され、内臓破裂により即死した。

2  被告等の責任

(一) 被告神奈川中央交通株式会社

同被告は、加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していたから自賠法第三条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

(二) 被告橋本

同被告は、加害車両を運転走行中、右後方の安全を確認することなく漫然加害車両の進路を右に寄せた過失によつて本件事故を発生させたもので、民法第七〇九条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

3  原告等と訴外智春の関係

原告等は訴外智春の父母であつて、訴外智春の死亡により、訴外智春の本件事故に基づく損害賠償請求権を各二分の一宛相続した。

4  損害

(一) 文書料 一万六〇〇〇円

原告等は、死体検案書等文書料として一万六〇〇〇円を支出し、各二分の一宛負担した。

(二) 葬儀費用 一二八万六一五七円

原告等は、訴外智春の葬儀をとり行い、その費用として一二八万六一五七円を支出し、各二分の一宛負担した。

(三) 逸失利益 二九六二万五五一八円

訴外智春は、死亡当時高校在学中で、本件事故に遭遇していなければ、一八歳から六七歳までの四九年間稼働し、その収入は高校卒女子労働者の平均収入額を下回らないことは明らかである。

そして、昭和六〇年度賃金センサス第一巻第一表企業規模計・産業計・高校卒女子労働者の平均年収は二三二万九四〇〇円であるから、生活費として三〇パーセントを控除し、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は、次のとおり二九六二万五五一八円になる。

232万9400円×(1-0.3)×18.1687=2962万5518円

原告等はその各二分の一である一四八一万二七五九円宛を相続した。

(四) 慰謝料 合計二〇〇〇万円

本件事故により訴外智春は年若くして死亡し、原告等は最愛の一人娘を失つた。訴外智春が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰謝するには一五〇〇万円の支払をもつてするのが相当であり、原告等はその各二分の一である七五〇万円宛を相続した。また、原告等が受けた精神的苦痛を慰謝するには各二五〇万円の支払をもつてするのが相当である。

(五) 弁護士費用 合計四〇〇万円

原告等は、被告等が原告等の損害賠償請求に応じなかつたため、本訴の提起・追行を原告等訴訟代理人に委任し、その費用として、各二〇〇万円合計四〇〇万円の支払を約した。

5  結論

以上によると、被告等は、各自、原告等それぞれに対し二七四六万三八三七円の支払義務があるが、原告等は、うち各二〇〇〇万円及びこれに対する本件事故発生の日の昭和六一年七月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  1項の事実のうち、事故態様を除くその余の事実は認め、事故態様は争う。

2(一)  2項(一)の事実のうち、被告神奈川中央交通株式会社が加害車両の保有者であり、運行供用であることは認めるが、有責であることは争う。

(二)  同(二)の主張は争う。

被告橋本は、加害車両を運転し時速二五ないし三〇キロメートルで進行していたところ、対向車の車間が空いたとき、後続車が加害車両を追い越した。同時に道路右の「イワサキハウス」辺りから右車線を横切るように訴外智春運転の被害車両が出てきて、対向車の接近に驚いたのかパツシングに目が眩んだのかし、加害車両の直近で転倒して加害車両の右後輪付近から加害車両の下に巻き込まれた。本件事故は、訴外智春のハンドル操作の誤りに起因するもので、被告橋本には事故発生に過失がない。

3  3項の事実は認める。

4  4項の事実は知らない。

四  被告神奈川中央交通株式会社の抗弁(自賠法第三条但書の免責の主張)

1  前記のとおり、本件事故は、訴外智春のハンドル操作の誤りに起因するもので、被告橋本には事故発生に過失がない。

2  また、加害車両には、構造上の欠陥、機能の障害がなかったから、自賠法第三条但書により、被告神奈川中央交通株式会社には損害賠償責任がない。

五  抗弁に対する認否

被告等の主張は争う。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1項の事実のうち事故態様を除くその余の事実は当事者間に争いがない。

二  よつて、以下本件事故の事故態様につき検討する。

原本の存在、成立に争いのない甲第三号証ないし第五号証、成立に争いのない甲第六号証の一ないし一四、事故現場の写真であることに争いのない乙第一号証の一ないし三、加害車両の写真であることに争いのない同号証の四、被害車両の写真であることに争いのない同号証の五、証人青山忠男、同高橋敬の各証言、被告橋本本人尋問の結果によると次の事実を認めることができる。

1  本件事故現場は、中田町方面から戸塚駅方面に至る歩車道の区別のある車道の幅員片側戸塚駅方面三・四メートル、中田町方面三・六メートル(路側帯を含む。)の片側一車線の道路上で、右道路は、公安委員会により最高制限時速が四〇キロメートルに指定され、単路のため、追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止が道路標識及び道路表示によつて示されている。

また、本件事故現場付近は直線平坦な道路で、道路に沿つて水銀灯が設置されていて夜間でも見通しが良好であつた。

2  本件事故発生時間は午後九時一〇分頃で、本件事故発生場所付近の道路の交通量は比較的多かつた。

被告橋本は、加害車両を運転し、中田町方面から戸塚駅方面に向け時速二五ないし三〇キロメートルで進行して本件事故現場に至つたが、加害車両の前方約七〇メートルを先行車が走行し、後方には五ないし六台以上の車両が走行していた。

加害車両の車長は一一・〇六メートル、車幅は二・四八メートル、車高は三・一一メートルで、加害車両は進行車線のほぼ中心を走行していた。

3  被告橋本が、加害車両を運転し進行していたところ、対向車が一時途絶えて、加害車両の二・三台後方を走行していた白いライトバンが対向車線に出て加害車両を追い越し、加害車両の前に入ろうとした。

4  その時、中田町方面から戸塚駅方面に向かう道路右に所在する「イワサキハウス」前の歩道付近から、戸塚駅方面から中田町方面に向かう車線を横切り、加害車両の進行する車線に進入するように訴外智春運転の被害車両が出てきて、加害車両の右後方から進行して、並進しようとしたところ、接近してきた対向車両がパツシングし、その直後、被害車両は加害車両の右側面の中間よりやや前方に接触して転倒し、被害車両は加害車両の右後輪付近から加害車両の下に巻き込まれて大破し、訴外智春は其の場に転倒して加害車両の後輪に轢過され、内蔵破裂により即死した。

5  被告橋本は、加害車両の前に入ろうとした白いライトバンとの接触を避けるため、同車両を注視していて、被害車両が路上に進入し、並進しようとしていたことに気付かず、加害車両が何かに乗り上げたような感じを受けて事故に気付き加害車両を停車させた。

以上のとおり認められる。

原告等は、訴外智春が被害車両を運転走行中、加害車両が本件事故現場付近の停留所にさしかかり速度を落としたため、先行車に続いてこれを追い越そうとしたところ、加害車両が右に寄つたため被害車両に接触し、被害車両が転倒した旨主張するのであるが、右事実を認めるに足りる証拠はなく、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

三  被告等の責任

1  被告橋本

原告等は、被告橋本は、加害車両を運転走行中、右後方の安全を確認することなく漫然加害車両の進路を右に寄せた過失によつて本件事故を発生させた旨主張する。

しかし、右事実が認められないことは前判示のとおりであり、本件事故は、むしろ、訴外智春が被害車両を運転し、中田町方面から戸塚駅方面に向かう道路右に所在する「イワサキハウス」前の歩道付近から、戸塚駅方面から中田町方面に向う車線を横切り、加害車両の進行する車線に進入し、白いライトバンに続き加害車両を追い越そうとしたところ、接近してきた対向車両がパツシングしたため、ハンドル操作を誤り、加害車両に接近し過ぎて、被害車両を加害車両に接触させて転倒したことにより生じたものと判断され、被告橋本に本件事故発生に過失があつたことを認めることはにわかにできない。

2  被告神奈川中央交通株式会社

同被告が加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

しかし、加害車両の運転者である被告橋本に本件事故発生に過失がなく、本件事故は専ら訴外智春の不注意により発生したものと認められることは前判示のとおりであり、前掲甲第三、第四号証によると加害車両に構造上の欠陥、機能の障害があつたことを認められないから、被告神奈川中央交通株式会社は本件事故により生じた損害を賠償する責任はないものと判断される。

四  結論

以上によると、原告等の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 木下重康)

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